30年くらい前、日本の歯科界は虫歯予防に熱中しました。もちろん、今も歯科は予防だと宣伝されています。
世界の口腔衛生ケアの権威と言われたスウェーデンのアクセルソン先生が30年くらい前に数回来日して講演してくださいました。その内容は、当時の最新の虫歯予防、歯肉炎の治療の概念、診察道具、テクニックなど、日本の歯科医にとっては驚きの臨床でした。私はアクセルソン先生の講演を何度も拝聴しました。
特に初めて聞くPMTCという用語。エバコントラを使用した口腔衛生ケアの実践は、日本中の歯科医や歯科衛生士を熱中させました。これが虫歯予防であると、日本中の歯科医や歯科衛生士を確信させ、日本人の虫歯予防の権威といわれる歯科医まで現れました。
本来、開業医での虫歯予防の権威は故丸森賢二先生です。外国人に影響されず、日本人の歯科医なら故丸森賢二先生の『虫歯予防の実践』をお読みください。名著です。
しかし、アクセルソン先生は虫歯予防だけでなく、歯肉炎治療の口腔疾患治療についても話していました。
1981年、PMTCの本家スウェーデンのアクセルソン先生とリンデ先生の多数の論文が出て、PMTCはいかに効果的な虫歯予防方法であるかという結論を出しました。同年1981年、イギリスのアシュレー先生は、PMTCを行っても行わなくても虫歯予防の効果は変わらないという論文を発表しました。あれれ!!これってなんなの!!私も含めて、日本中の歯科医が夢中になった虫歯予防のPMTCは効果がないという論文が出ていたのです。
このような論文の存在さえ私は知らず、当時日本の歯科医に公開されていたのかも疑問です。PMTCのエバコントラが日本中で売れに売れていた最中なのに。
私はこんな不安定な気持ちでPMTCを数十年続けてきましたが、近年興味深い本を入手して読んでみたところ、のめり込みました。大野純一先生のご著書です。アクセルソン論文とアシュレー論文の違いの謎解きをしてくださった。アクセルソン論文とアシュレー論文もどちらも正しかったのです。結論は、PMTCを行う前に口腔衛生の知識を患者に十分に提供しないとPMTCの効果は出ないということです。ここがPMTCのミソであり秘密です。
PMTCに限らず、どのような口腔衛生に関する予防処置をしても、その処置の意義や予防処置が患者にいかに有益であるかを十分に説明しない限り効果は出ません。大野純一先生のご著書に出会えたことで、PMTCの謎が解けて81歳現役の歯医者は、まだまだ患者のために歯科医療に邁進するエネルギーの補充となりました。歯科というのはなんと興味深く面白い仕事なのでしょうか。勉強していると驚きの事実が出てきます。みんな気が付かないが、長く臨床治療をしていると厚い本の中にほんの一行に真実が出ているのを見つけることがあります。